反田恭平さんと小林愛実さんおめでとうございます!成功の理由はやる事とやる気

ショパンコンクール入賞の2人はクラスでとんでもない感じの子だった 高校恩師語る

2021年10月25日 14:57NHK NEWS

世界の一流ピアニストの登竜門「ショパン国際ピアノコンクール」でダブル入賞の快挙を果たした、反田恭平さんと小林愛実さん。

2人は幼なじみ。高校も1学年違いで、名門・桐朋女子高等学校の音楽科に通いました。

高校時代、2人にショパンを教えていた先生に話を聞くと、2人のユニークな一面を教えてくれました。

高校の“恩師”に聞いてみた 「2人はどんな生徒?」

今回のコンクール、現地・ワルシャワの会場には、2人をよく知る“恩師”の姿もありました。

ピアニストで音楽評論家の下田幸二さん。
1990年から毎回、このコンクールを現地で聴いています。

反田恭平さん(27)と小林愛実さん(26)が通った「桐朋女子高等学校」の音楽科(東京・調布市)では講師を務めていて、2人の高校時代にも、ショパンの音楽や演奏法を教えていました。

世界のピアニストのトップに立った2人、当時はどんな生徒だったのでしょうか。

下田さんに聞くと、笑いながら当時を振り返ってくれました。

「反田くんは、ちょっとめんどくさい男の子」

下田幸二さん
「反田くんって、小林さんもそうだったけど、クラスの中でも“とんでもないような感じの子”だったんですよ」

「その学年はとても上手な生徒が多くて、日本音楽コンクールの入賞者が20人中6人くらいいたのかな。その中でも反田くんは、『先生の言ってることそんな興味ないよ』って顔をしていて、授業中も全然話を聞いてないようなふりをしてるんですね。
で、いざ演奏を指名されると『いや~、全然弾けませんよ』とか言いながらも体はピアノに向かい始めている…。
弾きたくないふりして、弾く気満々という感じでしたね。それで『練習してないからな~』とか言うから、『楽譜いる?』って聞くと『もちろんです!ぜんぜん弾いてないんで』って言いながら楽譜広げて、いざ弾き出すと、ものの見事に弾いてみせる」

「そういうちょっと“めんどくさい男の子”でしたね(笑)。でもそれが彼の愛すべきキャラクターでした」

「小林さんは『まあ、弾いてあげてもいいわよ、みたいな感じ』」

下田幸二さん
「小林さんも、授業で演奏を指名すると『まあ、弾いてあげてもいいわよ』みたいな感じで前に出てくるんです。
それで演奏後に私が『ショパンの楽譜にはこうあるから、こう弾くべきじゃない?』と指摘すると、彼女はしばらく黙ってから私の方を見て、『え?そう弾かなかった?さっきそう弾いたよね?』って言うんですよね(笑)」

「ふつう学生は『はい』って話を聞くものなんで、ぎょっとするし、笑いが止まらないくらいでした。でもそれくらいじゃないと、ショパンコンクールのような大きな場でちゃんと弾くなんていうことはできないんでしょうね」

現地で聴いた 2人の演奏は?

今回のコンサートでは、予選から最終の本選まで、すべてのピアニストの演奏を聴いたという下田さん。
2人の演奏はその中でも、際立つものがあったといいます。

下田幸二さん
「反田さんは1位にも等しい演奏をしたと思います。予選から見事な完成度で会場が割れんばかりの拍手に包まれていました。
本選では『ピアノ協奏曲第1番』をこれ以上は立派に弾けないくらいに弾いていました。もしかしたら今回は彼に1位の目があるかと思うくらいに、充実した演奏ぶりでした。
現地でも彼の演奏は大変人気がありました。反田さんは3日間ある本選の初日に弾いたんですけど、2日目や3日目に、知人の教授仲間や評論家などと話すと、『キョウヘイ・ソリタがよかった』という声は大変多かったですね」

「2位という結果も本当に誇るべきもので、決して時の運でとれるものではないので、胸を張って今後の演奏活動につなげてほしいです」

下田幸二さん
「小林さんは前回の2015年にも見事本選に残ったんですが、残念ながら入賞はなりませんでした。
今回は小林さんのほかにも、2回目の挑戦をする過去のファイナリストがいましたが、実力を発揮しきれずに予選で敗退していったんです。その中で、小林さんのことしのピアノは、自分の実力と今回のチャンスにかける“執念”を感じさせる演奏でした」

「彼女は女性の中でも体が大きくはないのですが、その体をうまく使って、『ピアノ』『ピアニッシモ』のような小さな音を上手に響かせ、ショパンの作品に寄り添うことで、自分の“ショパン感”を表現していました。
それが会場にいる世界の聴衆の心を打ち、支持されたことは大変立派なことだと思います」

ダブル入賞の快挙 どんな意義がある?

今回、2人がダブル入賞を果たした「ショパン国際ピアノコンクール」。

音楽界、とりわけピアニストにとっては、特別な意味を持つ舞台だと言います。

下田幸二さん
「ピアノの世界にも大きな国際コンクールがいくつかありますが、その中でも別格です。
例えるなら、テニスプレーヤーが、4大大会の中でも全英オープンウィンブルドンを特別視するように、『もし1つ入賞できるなら絶対にショパンコンクールだ』と思っている演奏家は多いと思います。
ショパンコンクールですばらしい成功を収めたら、その後はコンクールに参加しないという人も多く、“コンクールの終着駅”とでも言うべき位置づけです」

その大舞台で成し遂げた2人の達成には、日本の音楽界にとっても、大きな意義があるといいます。

下田幸二さん
「日本のピアニストのレベルは近年もすばらしいんですが、ショパンコンクールにおいては2005年を最後に日本人は入賞できていませんでした。中国など、ほかのアジアのピアニストがとても強くなり、日本のピアニストの発信力が少し弱まっていた面がありました。
そうしたなかで、反田さんと小林さんが日本の実力を見事に示して2位と4位に入賞したことは、本当に大きな快挙です。日本のピアノ教育とピアニストの高い実力を世界に示しました。国内の若い演奏家たちにも勇気を与える入賞だったと思います」

コンクールを終えた2人の様子は

コンクール終了後には、緊張の解けた2人の表情も見られたということです。
下田幸二さん
「小林さんは今回が2回目で、なんとか入賞したいという強い思いがあったし、おそらく心配もとても多かったと思いますね。
まだゆっくりとは話せていませんが、大変うれしそうな様子で、ほっとしたというか、とてもいい笑顔でしたね」

「反田さんは、入賞後の会見のあと、深夜3時くらいに私が路上でタクシーを待っていたら、後ろから『先生ー!』って呼んできて、『おれ、やばくないですか!』『やばいですよね?』って話していましたよ(笑)。こんなにうれしそうで大丈夫なのかっていうくらい喜んでいました。
今は喜びをかみしめて頂いて、2位の責任を胸に、またしっかりと演奏活動に励んでほしいですね」