大野音楽も好きだからなぁ~~~。アニソンDaysに出ちゃえよ

作曲家・大野雄二「小さな旅」「ルパン」生んだダメ出しの日々

2022年3月1日 15:23NHK NEWS

およそ40年前に放送を開始した、NHK「小さな旅」。日本各地で人々の暮らしや風景を描き続けてきた番組です。
そのテーマ曲をつくったのが、作曲家でジャズピアニストの大野雄二さん。

「小さな旅」のほかにも、アニメ「ルパン三世」、映画「犬神家の一族」など、数えきれないほどの名曲を生み出してきました。80歳になったいまも、現役のジャズミュージシャンとしてステージに上がる大野さんに、半世紀以上にわたる音楽への思いを聞きました。

「小さな旅」を作ったあの人 今も現役です

日曜日の朝放送の「小さな旅」。オープニングテーマを一度は耳にしたことがあるという人は多いのではないでしょうか。約40年前にこの曲を作ったのが、大野雄二さんです。

1月下旬、大野さんの80歳を記念するコンサートが都内で開かれました。
おなじみの「ルパン三世のテーマ」が始まると、歓声が沸き起こります。およそ5000人収容の施設が満員になるなかでの3時間を超えるコンサート。ステージの大野さんは、時にピアノの椅子から立ち上がったり、興に乗ってくるとひじで鍵盤をたたいたり…。休憩もほとんどなく、年齢を感じさせない圧倒的なパフォーマンスを見せました。

コンサートは半世紀以上にわたる音楽活動の集大成として、これまで大野さんが手がけた人気曲が次々と演奏され、多くの観客が楽しんでいました。

大野雄二さんの代表曲 
●アニメ「ルパン三世のテーマ」/「スペースコブラ」/「キャプテンフューチャー」/「海底超特急マリンエクスプレス
●映画「犬神家の一族」/「人間の証明」/「野性の証明」/「最も危険な遊戯」/「殺人遊戯」
●ドラマ「大追跡」/「マー姉ちゃん」/「水もれ甲介」
●CM「きのこの山」/「レディーボーデン」   など

完璧な演奏なんて面白くない

コロナ禍でのコンサートの前には、入念な感染対策のもとで2日間にわたるリハーサルが行われました。

リハーサルでは、大野さんがミュージシャンたちに対して、こんな指示をする姿が何度もありました。

「いま遠慮してた?もっと雰囲気で思いっきりやって」
「やたらと譜面に忠実すぎたみたいだけど、もっと雰囲気で」

作曲家・ジャズピアニスト 大野雄二さん
かたちが完璧な演奏より、その時だけの「雰囲気」を最大に生かしたいんです。人間なんだから多少間違えたっていいし、実は僕なんか率先して一番間違えてるよ(笑)図面通りの演奏よりも、その瞬間だけの、生き生きしたものを出したほうが絶対面白い音楽になる。譜面は単なる記号。あとは心だから。その音を出すのは人間なんだから

「コピー」から始まった大野さんの音楽

大野さんの音楽のルーツは、高校生からはじめた「ジャズ」です。高校1年の文化祭でジャズピアノを演奏する学生たちを見て衝撃を受け、「自分にもできるかもしれない」と思ったといいます。それからは頭のなかはジャズ一色に。勉強は一切しないで、姉が弾いていた家のピアノを使って、独学で練習を始めました。

大野さん
練習っていうよりも「コピー」だね。当時は教科書なんてないから、とにかく自分にとってアイドルだと思っているジャズプレーヤーのレコードを聴きまくって、コピーすることから始めるしかなかった。レコードも高くて買えないから、ジャズ喫茶で一日中粘って耳で覚えるんです。僕はピアノをちゃんと習っていないから、手が追いつかなくて、弾けないけど頭の中でのサウンド感みたいものを鍛えて、頭に手が追いつくように必死でそういう練習を繰り返したんです」

僕はニセモノだった 痛感した「コピー」の限界

大学生の頃にはプロのジャズピアニストとしてステージで活躍するまでになりますが、20代の終わりに大きな転機が訪れます。憧れのジャズミュージシャンが来日して、一緒に演奏をしたことで、大野さんは自分に足りないものを痛感したといいます。

大野さん 
「彼らとプレイすることができて、こんなに気持ちよかったことはないくらい最高の気分だったんだけど、同時に痛感したんだ。『うわー、かなわない』って。実力の差っていうか、そういうものがあまりにもあり過ぎた。
その時わかったのは、コピーしてできたとしたら、それはまだコピーなんだということ。要するに、自分の財産がなくて、僕はかたちだけ借りた『ニセモノ』だったんだ。そこにオリジナリティーが加わらないと、自分がやる意味がないとわかったんです」

制約の中で自分の音楽を見つける

この頃から、大野さんは作曲家に転身して、テレビや映画、CMなどを舞台にオリジナルの作曲を手がけるようになっていきます。「自分の音楽」を生み出したいと思う一方で、そこは制約だらけの世界でした。

大野さん
「それまではジャズピアニストとして自分のやりたいようにやってきたのが、職業として作曲家になったら、全てが真反対。映画やCMはプロデューサーやスポンサーの意見が絶対だから、僕がいくらいいと思ってもダメといわれたらどうしようもない世界。次々と『ダメ出し』されてつらかったけど、『いつかギャフンと言わせてやるぞ』って奮闘して、だんだんとそれが評価されていくうちに、作曲の面白さが広がっていったんです」

大野さんのつくる音楽は、次第に独特の個性を確立していきます。
ジャズを背景に、世界中の多彩なジャンルの音楽を織り交ぜたスケールの大きな作品群は、やがて「大野雄二サウンド」と呼ばれるようになっていました。

こころの中の風景を描いた「小さな旅」

大野さんの代表作、「小さな旅」のテーマ。およそ40年前の番組放送開始から使われたこの曲は、たくさんの人の琴線に触れて長く愛されてきました。大野さんがこの曲で表現したのは、自分のこころの中にある風景だといいます。

大野さん
イメージしたのは、こころの中にある『日本の原風景』。
夕方に子どもが外で遊んでいると、周りから晩ご飯の匂いがしてきて、お母さんにご飯ですよって呼ばれて、それぞれがうちに帰っていくみたいな、そんなどこかほのぼのとした、懐かしいような風景を一番最初にイメージしたんです。サビのところは少しヨーロッパ風にしていたりしてね、すごく自分らしい曲になっていると思います」

効率より感動「ビリっと破れ!」

大野雄二サウンドの源となる楽譜。大野さんの楽譜は、なんと今もすべて手書きです。自分専用の紙と鉛筆で、たくさんの曲を生み出してきました。大野さんの楽譜は「とにかくわかりやすい」ことを重視。「かっこつけても仕方ない」という方針で、日本語の指示がたくさん書き込んであります。

大野さん
「手書きの楽譜で一番腹が立つのは、何時間もかけてイントロを6小節ぐらい書いたのに『うーん、なんか違う』みたいに自分で気づいてしまったとき。『もったいない』って思いながら譜面をビリッと破くんだよ。その悔しさったらないよ(笑)
でも、破るのは大事。いまはパソコンで楽譜を書く人が多いけど、データで残したり切り貼りするんじゃなくて、やっぱりビリッって潔く破って捨てるほうがいい気がするな。
最終的にね、効率を優先するか、お客さんが聴いて感動を優先するかといったら、それは効率なんか優先しちゃだめだよ」

今だからこそ ジャズが、音楽が楽しい

半世紀以上にわたり、自分自身の音楽を追求し続けてきた大野さんは、いまでもジャズピアニストとしてステージに上がっています。
若い頃、制約やダメ出しの中でもがきながら曲を作った日々は、自由に音楽を楽しむために必要な時間だったといいます。

大野さん
「天才じゃないんだから、こんなつらい思いすんのか!みたいな、それの連続ですよ。
その連続で80年経ったわけ。だから、つらいと言いながらつらくないんです。多分その中に面白さがあって。何の努力もしないでつらつらできちゃってる方が多分つらいと思うよね。結局、自分は自分だから。自分が納得しなきゃいけない。だから頑張ってきた。それだけだね